公開: 2021年10月24日
更新: 2021年10月25日
調査委員会が言う「顧客視点での問題認識の弱さ」とは、1990年代に米国の企業で始まった顧客視点でのサービス品質運動(customer satisfaction movement)に基づき、顧客視点で自分達の業務を見直さなければならないとする考え方に基づく。1980年代の後半から、米国社会では製品やサービスの供給が需要を上回り、過剰な状況が続いていた。このような状況下でも、企業間の市場での競争は激しさを増し続け、各企業は生き残りをかけて、品質運動に取り組んでいた。当時、日本製品の品質は世界最高水準にあったと、広く認識されていたため、日本製品の品質を詳細に分析した結果、日本製品の顧客視点から見た製品作りが注目され、米国製品やサービスの品質向上にこの「顧客視点」の思想が取り入れられた。このことは、1930年代に米国で確立された統計的品質管理における「品質の概念」を根本から覆す結果となった。つまり、メーカなどの財の供給者が最善と考える製品やサービスを供給しても、顧客が市場でそれをどう評価するかは未知であるとする考え方である。顧客に認知されなければ、いくら「良いと考える」製品やサービスを作り出しても、売れるとは限らないからである。みずほ銀行では、同行が提供する銀行の金融サービスの質について、その「顧客視点」での検討が不十分で、顧客の優先順位と、同行の行員や経営陣が考える優先順位の間に、大きな違いが発生していたと、調査委員会は結論付けたようである。これは、過去の供給優位の時代の、古い品質思想に固執していたからである。